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機械翻訳があれば英語は不要? 機械翻訳の弱点と英語が必要な理由

グローバル化や教育改革により英語教育の需要が高まっている一方で、機械翻訳の進化による英語不要論をたまに耳にすることがあります。

 

結論から言うと、

これからも英語は必要です。

むしろ、必要性は増すばかりです。

 

機械翻訳の進化

私は普段、仕事している中で時々Google翻訳を利用することがあります。

2016年にリニューアルされ、かなり精度が上がりましたが、一昔前までは支離滅裂な翻訳をしてあまり使い物にならなかった印象ですので、開発者に敬意を払うと同時に感動しています。

 

Google社が保有する膨大な言語データから、この文章のときは、こんな訳になるという大量のパターンを学習させて、統計的に対訳を出しているため、Google翻訳が他社に比べてより自然な翻訳になるのも納得です。

長い文章や論理的な文章は、満足のいく翻訳結果でないこともよくありますが、日本語で省略されがちな主語も、英語の翻訳文では主語がきちんと入っていたり、文脈に合わせて最適な翻訳がされていたり、概ね理解できる翻訳になっており、かなり改善された印象です。

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機械翻訳の限界

機械翻訳の精度が上がったとは言え、統計的に一番最適な翻訳を出しているので、人間のように文章を理解しているわけではなく、また、言葉の背景や状況までを正確に汲み取って翻訳することが出来ません。

 

つまりそのような細かい部分は生身の人間しか正確に判別して使い分けられず、そこにどうしても機械翻訳の限界を感じてしまいます。

 

例えば、昨日(2020.3.28)の新型コロナウイルスのニュースを翻訳してみましょう。

『政府は28日、新型コロナウイルス感染症対策本部の会合を首相官邸で開き、国内の感染爆発に備え、今後の対応の指針となる基本的対処方針を決定した。対処方針に基づき、感染拡大阻止に全力を挙げるよう各閣僚に指示した。』

(時事通信ニュースより一部抜粋)

 

これをGoogle翻訳にかけると以下となりました。

『The government held a meeting of the New Coronavirus Infectious Disease Control Headquarters at the Prime Minister's Office on March 28, and decided on a basic response policy that would guide future actions in preparation for an outbreak of domestic infection. He instructed ministers to make every effort to stop the spread of infection, based on the response policy.』

 

かなり優秀です。

しかし、注目してほしい点が2点あります。

 

固有名詞の判断

まずは新型コロナウイルス」の翻訳です。

新型コロナウイルスは正しくここ最近出てきた時事ワードです。

「the New Coronavirus」でも決して間違いではありませんが、「COVID-19」とWHOが命名してからは、こちらを使うのが一般的です。

しかし新型コロナウイルス」という言葉を現在の社会状況を反映して「COVID-19」という固有名詞に置き換えるのは機械翻訳では到底不可能です。

 このように、時事ワードや固有名詞といったものは機械翻訳では上手く翻訳出来ないことが非常に多いです。

 

主語の判断

次に「対処方針に基づき、感染拡大阻止に全力を挙げるよう各閣僚に指示した。」の翻訳です。

 

 日本語は主語や目的語を省略しても文章として成立しますね。

まさしく、この文章は主語(「誰が」各官僚に指示したのか)が抜けた文章です。

Google翻訳では「He」が主語に当てこまれており、日本の首相は安倍総理、つまり男性なので「He」で合っていますが、Google翻訳は決して、この文章が日本の話であること、首相が安倍総理であることを理解して翻訳しているわけではありません。

恐らくこちらも何かしらの統計的に「He」と判断しただけです。

 

では、もしこれがドイツの出来事でメルケル首相の話であったら?

少し過去のイギリスの出来事でかつてのメイ首相の話であったら?

主語の「He」は「She」であるべきで、この「He」は誰なんだということになりますね。

※さらに細かい話をすると、ドイツの首相はPrime Ministerではなく、「Chancellor」と表現されます。

しかしこれも機械翻訳では判断して使い分けることが出来ません。

 

冠詞や単数複数形の判断

英語には日本語にはない冠詞や単数複数形の概念があります。

これらも、その文章の背景や状況に依存する部分が大きく、日英翻訳の場合、機械翻訳ではそこまで読み取れません。

 

例えば、
「私は犬を飼っています。」

という日本語では、その犬が何匹いるかまでは言及していないため、わかりません。

 しかし英語では

「I have a dog.」

あるいは

「I have dogs. 」

数えられる名詞であれば明確に単数形か複数形を表さなければなりません。

 

他にも、

「彼にレポートを提出してもらわないと。」

という英語を

「I need to ask him to send me a report.」と訳すのか

「I need to ask him to send me the report.」と訳すのかでは意味が異なります。

 前者の「a report」ですと、「何かしらレポートを一つ出してもらわないと」という意味ですが、

後者の「the report」ですと、「お願いしていた例のレポートを出してもらわないと」と明確なものを指しています。

 

単語のニュアンスの判断

言語は非常に複雑で、単語一つをとっても文脈によってニュアンスが異なりますし、最適な単語を当てこまなければなりません。

 

例えば、「私は夫にタバコをやめさせた。」という文章です。

「I made my husband stop smoking.」

「I made my husband quit smoking.」

日本語文からは、以上の二つの翻訳が考えられますが、意味は異なります。

 前者は、例えば、禁煙席でタバコを吸っていた夫に「一時的に」やめさせたニュアンスですが、

後者は、例えば、健康上の理由などから今後タバコを吸うことをやめさせたニュアンスです。

 

これも、機械翻訳では判断しきれないでしょう。

 

冠詞が不定冠詞のa/anか、定冠詞のtheなのか、その名詞は単数なのか複数なのか、どの単語を選ぶのか、これらは場合によっては英語の意味がとても大きく変わるにも関わらず、この細かなニュアンスが正確に翻訳されないと、誤解を生んだり上手く伝わらない可能性があるのです。

 

国や文化に依存する表現の判断

国や文化特有の表現なども、機械翻訳ですと直訳となってしまい、全く意味が通じない事態が発生します。

 

日本人数名と海外の方と食事をしているときに、その海外の方が何か面白いことを言って、日本人の誰かが「座布団一枚!」と言ったことがありました。

座布団一枚!は笑点という番組からきている日本特有の「いいね!」「面白いね!」という表現ですが、

これを機械翻訳にかけると「one cushion」と迷いなく直訳されます。

実際、その日本人の方も迷った挙句「give you a cushion!」のようなことを言われました。

しかし、想像通り、その文化を知らない海外の方は「???」となっていました。

 この場合は「Nice one!」「That’s a good one!」あたりが妥当な対訳でしょう。

 

これからの時代に英語が必要な理由

さて、機械翻訳の限界についての例をいくつか出しましたが、それでもこの先英語は100%機械翻訳頼りにできるでしょうか?

 

更なる英語格差が広がる

機械翻訳は、英語がある程度できる人にとって、一から自力で文を作る必要がなく、機械翻訳された文を元に手直しするだけで済む「お役立ちツール」という位置付けで、更なる効率アップの恩恵を受けるように感じます。

 

英語が出来ない人にも、もちろん役に立つでしょうが、より正確な翻訳になるように日本語文の入力も少しコツがいりますし、何より翻訳された文章の妥当性や正確性を判断出来ないのは大きなディスアドバンテージとなり、英語格差はますます広がるようにも感じます。

 

英語がハブになる

グローバル化に伴い英語はもちろん、中国語など他の言語に触れることもあるかもしれません。

 そんなときも恐らく機械翻訳が役に立つことになると思いますが、ここで是非知っておいてほしいのは、それぞれの言語の組み合わせのプログラムを作ろうとすると、果てしない数の組み合わせ(プログラム)が必要になるため、機械翻訳は英語をハブにプログラムが作られているということです。

 例えば日本語⇄中国語の場合も、表面上には見えませんが、日本語⇄英語⇄中国語という仕組みになっています。

やったことがある人もいるかと思いますが、日本語文を英語に訳して、それをさらに日本語文に翻訳すると、最初の日本語文とはかなりかけ離れた文章になることがありますよね。

日本語から英語以外の言語に翻訳しようとすると、英語を介しているが故に、まさにその現象が起こるのです。

 

でも、もし英語が出来たらどうでしょう?

英語⇄中国語でもし出来るのであれば、日本語⇄中国語よりも正確な翻訳が出るでしょう。

 

これから先、あなたがコミュニケーションを取る人は、必ずしも英語を話す人とは限りません。

 

まとめ

機械翻訳の進化により、英語不要論をたまに耳にしますが、英語が出来なくてもいい時代は来ないと思います。

これまでにも述べたように、むしろこれからどんどん必要になります。

 

それは、機械翻訳を使うと、翻訳する間の時間が会話のテンポを悪くする、人間同士の生きたコミュニケーションじゃないからという理由以上に、機械翻訳としての限界があり、翻訳文の妥当性や正確性に100%の保証がないことが大きいように思います。

 

日常会話や旅行先ではそんなに問題ないかと思いますが、ビジネスの場など大事な場面では、小さな翻訳ミスが大きな誤解や問題に繋がりかねません。 

せめて機械翻訳と上手く付き合っていけるぐらいの英語力はこの先も必要でしょう。